Bluetoothと赤外線通信

Bluetooth(ブルートゥース)も赤外線通信も近距離無線規格の一種で、携帯電話やスマートフォンなどにも、この規格を利用して他のデジタル機器との間で、データのやり取りができる機能が備わっていますので、ご存じの方も多いでしょう。

 

両者にはそれぞれ特徴があり、メリット・デメリットも違います。 そのため向いている用途も異なり、赤外線は主にテレビ・エアコン・車などのリモコン類に使用される一方、Bluetoothはヘッドセットやスピーカー、マウス・キーボードなどパソコン・スマートフォンの周辺機器に多く採用されています。 

 

赤外線通信

赤外線通信とは文字通り、赤外線を利用して信号を送受信して行う無線通信の総称です。近距離でしか通信を行えませんが、消費電力が少なくて済み、端末を小型化できる利点があります。ただし、赤外線通信は、同時に複数の機器との間での通信はできず、また双方向の通信ができません。

 

無線LAN(Wi-Fi)や後述するBluetoothと違い、赤外線通信は、通信対象の機器同士を事前に接続する必要がなく、送信側、受信側の機器を近づけて、双方の赤外線ポートがまっすぐに向き合うようにすれば、すぐにデータ通信ができるという簡便さが特長です。

 

テレビやAV機器、エアコンなどのリモコンに使われるほか、パソコンや携帯電話などのデータ通信に用いられています。

 

赤外線(Infrared Ray)は目に見えない光です。

一般に光と言うと目に見えると思われがちですが、光は電波やマイクロ波と同じ電磁波で、それらの波の長さ(波長)によって目に見えたり、見えなかったりします。

 

人の目で見える光を可視光線と言い、可視光線の赤の外側の(より長い)波長なので、赤外線といいます。 逆に紫の外側の(より短い)波長は紫外線と言います。ちなみに紫外線よりも短い波長の光のことを放射線(X線)といいます。

 

赤外線(波長が長い)と紫外線(波長が短い)は目に見えません
赤外線(波長が長い)と紫外線(波長が短い)は目に見えません

この赤外線のうち、一番可視光領域に近い波長(750nm前後~2500nm前後)である赤外線を「近赤外線」といい、この領域の赤外線を使用した通信のことを赤外線通信と呼んでいます。

 

赤外線は光ですので、直進する性質を持っています。そのため非常に指向性が高く、リモコンなどでも操作対象に対してまっすぐに向けないと届きません。また、途中に障害物があると途切れてしまいます。

 

リモコンの赤外線通信

リモコンの赤外線通信は、制御信号を赤外線の点滅に変換して、電化製品本体に伝える仕組みになっています。あたかもモールス信号のように、点滅のしかた(点灯時間あるいは消灯時間の長短の組み合わせ)で信号をあらわすのですが、その方式の共通規格はありません。メーカー各社独自の仕様です。

 

ただ、赤外線は温度を持つ物体から自然に放射されるという特性があります。これらの自然に放射されている赤外線とリモコンで利用する赤外線を区別するために、一般的なリモコンでは、38kHzの周波数で変調して赤外線(波長900nm帯。日本国内の製品では950nmが一般的)を発光させています。

 

【便利知識】

人間の目には見えない赤外線ですが、デジカメやスマートフォンなどのカメラを通せば、点滅を見ることができます。それらのカメラに使用されているCCDセンサーは可視光線よりも広い範囲の波長を捕らえることができ、リモコンの発光部にカメラを向けると画像には赤外線も映し出されるのです。 

 

IrDA(赤外線によるデータ通信規格)

赤外線によるデータ通信にはIrDA DATAという共通の規格があります。

 

IrDA(Infrared Data Association)とは、1993年に設立された、赤外線を利用した近距離データ通信の技術標準を策定する業界団体です。この団体が定めた赤外線によるデータ通信規格のことをIrDA DATAといいますが、これを略してIrDAと呼ぶこともあります。(以下では、IrDA DATAをIrDA規格と記述します。)

 

赤外線によるデータ通信を「いつでも」「どこでも」「誰にでも」利用できるようにするために、IrDA規格には、他のデータ通信規格と同様に、

 通信媒体としての赤外線の光学的な特性を定めた規格

 赤外線データを交換するための通信手順を定めたプロトコル規格

が含まれています。

 

IrDA規格が策定された当初はノートパソコンなどに一部搭載されていただけで、あまり普及していませんでしたが、日本において、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話に採用され、赤外線通信を活用した多様なサービスが展開されて以来、一気に広まりました。

目の前の人と携帯電話同士で、電話番号を交換するなどに使われるほか、パソコンなどに電話帳、メール、写真などのデータを保管するための外部通信機能としても利用されていました。

ただ、2000年代以降は、スマートフォンの普及とともにBluetoothによるデータ通信に移行しつつあり、現在ではiPhoneを始め、ほとんどのスマートフォンでは赤外線通信が利用できません。

 

IrDA規格の種類

IrDA規格の物理層の規定には、1.0から1.4までの5つのバージョンがあり、送受信素子や赤外光・通信速度・通信できる距離等が定められています。

 

通信距離30cmのものはローパワーオプション(LP)と呼ばれ、携帯機器向けに消費電力を抑えた規格です。ローパワー同士の機器間の通信距離は20cmとなります。

 

バージョン 変調方式 最大通信距離 最大通信速度
IrDA DATA 1.0 SIR 1m 115kbps 
IrDA DATA 1.1

MIR

FIR

1m

1m

1Mbps

4Mbps

IrDA DATA 1.2 SIR 30cm 115kbps
IrDA DATA 1.3

MIR

FIR

30cm

30cm

1Mbps

4Mbps

IrDA DATA 1.4 VFIR 1m 16Mbps

SIR:低速 MIR:中速 FIR:高速 VFIR:超高速


IrDAで使用される赤外線の波長は800nm帯で、リモコンの900nm帯と区別されます。

 

Bluetooth(ブルートゥース)

スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどのIT機器は無論、スピーカーやイヤホンなどのAV機器でも、Bluetoothを備えたものが増えてきました。

 

Bluetooth(ブルートゥース)とは、10m程度までの距離の機器間で通信を行うのに用いられる近距離無線通信の規格の一つです。無線LAN(Wi-Fi)と同様に、各国で免許不要で使用できる2.4GHz帯の電波を利用するものです。

 

Bluetoothは赤外線通信とは異なり、互いに見通せない位置にある機器間でも電波が届く範囲ならば接続することができます。また、接続可能な距離も10m位までと、赤外線通信に比べれば長いです。

 

赤外線通信は基本的に1対1の通信しかできませんが、Bluetoothは1対多の通信ができます。ただし、事前にペアリングという方法で機器同士を接続しておかなければなりません。

 

BluetoothとWi-Fiは、どちらも同じ2.4GHz帯を使うワイヤレスのデータ通信規格ですが、両者はまったく別の規格で互換性はなく、BluetoothとWi-Fiをつなぐことはできません。

スマートフォンや、最新のパソコンの多くは、BluetoothとWi-Fiの両方に対応しています。

 

主なBluetooth搭載機器

Bluetoothの送受信装置は小型軽量(1cm角程度)で、消費電力も少なく、安価に製造できるため、小さな電子機器にも容易に実装できます。IoT機器などでの利用を見越して、従来の1/3の電力で動作するBLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれる派生仕様も追加されましたので、今後ますますBluetoothを搭載する機器が増えるものと思われます。

 

ノートパソコン、スマートフォン、タブレット

最新機種には標準でBluetoothが搭載されるようになりました。

 

ヘッドホン・イヤホン、マイク、マイク内蔵のヘッドセット・イヤホンマイク、スピーカー

ワイヤレスのマイク内蔵型ヘッドホン(ヘッドセット)やイヤホン(イヤホンマイク)が、ハンズフリーで使用できて便利なので、普及が著しいようです。また、Bluetooth対応のスピーカーは、部屋の好きな場所にワイヤレスで配置できるので、寝室やキッチンなどに置いて利用したり、持ち運びに適した小型のスピーカーをスマートフォンと組み合わせて、音楽を楽しんだりする人が増えています。最近のカーナビシステムもBluetoothに対応しており、スマートフォンなどから音楽をカーステレオで流すなどができるようになっています。

ただしいずれも、音楽再生時に遅延が発生する場合がある、動画視聴において映像と音声に若干ズレが生じる、音声データを圧縮するため音質が低下するなどの難点があります。

 

キーボード、マウス

パソコンにBluetoothが標準搭載されるようになって、Bluetooth対応のワイヤレスマウスを使用する人が増えてきました。また、スマートフォンやタブレットへの入力のためにコンパクト設計のワイヤレスキーボードも市販されています。

 

Bluetoothを利用したその他の機能

テザリング(Tethering)

最近のスマートフォンにはテザリング(Tethering)という機能が標準搭載されています。テザリングとは、スマートフォンをルータ代わりにして、パソコンやタブレットなどの端末をインターネットに接続できるようにする機能です。

Wi-Fiによるテザリングが一般的ですが、Bluetoothによるテザリングが可能な機種もあります。Wi-Fiテザリングに比べて、通信速度は若干劣るもののバッテリーの消費量が少なくて済むのが特徴です。

 

自撮り棒のリモコンシャッター

スマートフォンを棒の先に挟んで、自分の方に向けて自分の顔などを映しこんだ写真を撮る自撮り棒には、

Bluetooth接続のシャッターボタンが付いている製品が多いです。中にはリコモン式のシャッターボタンも付いている商品もあります。

 

Bluetoothの仕様

◆Bluetoothのバージョン

Bluetoothの最新バージョンは5.0ですが、市場には、4.0、4.1、4.2の製品が未だ数多く出回っているようです。Bluetoothは基本的に古いものより新しいバージョンの方が性能が上なので、Bluetooth3.0よりは4.0、4.0よりは5.0の方が良いことになります。ちなみに、Bluetooth5.0は、Bluetooth 4.2と比べて通信速度が2倍、通信範囲が4倍も向上し、より遠くの距離からワイヤレスでつなぐことができ、Bluetoothにありがちな遅延もマシになると言われています。

 

◆Bluetoothのモード

Bluetoothにはバージョンとは別に「+イニシャル」の形で表されるモードという機能が存在ます。

+HS

HSとはHigh Speedの略で、文字通り24Mbpsの高速通信を可能にする機能のことです。 

+EDR

EDRとはEnhanced Data Rateの略で、動画などの大容量データを転送する際に3Mbpsの高速通信に自動で切り替えができる機能のことです。また、同じ音楽再生であってもEDRに対応している製品の方が高音質で再生することができます。

+LE

LEとはLow Energyの略で、Bluetooth4.0から導入された省電力化の規格名のことです。スマートウォッチやウェアラブル端末などのIoTデバイスでの利用を想定していて、ボタン電池一つで1年以上もつ機器もあるようです。(Bluetooth+LEは、Bluetooth LEあるいはBLEと記述されることがあります。)

Bluetooth Smart

Bluetooth SmartとはBluetooth LE(BLE)に対応した製品に付けられるブランド名です。

Bluetooth Smartには、BLE(4.0以上)とそれ以前(3.0以下)の両規格に互換性のあるBluetooth Smart Ready(デュアルモード)と、BLEのみに対応したシングルモードの2種類があります。

Bluetoothのロゴで対応できる通信方式を見分けることができます。

  • 無印マーク   バージョン 3.0以前の通信方式のみに対応
  • SMART      BLE通信のみに対応 (バージョン 4.0以上の製品同士のみの接続)
  • SMART READY  バージョン4.0以上の製品でもバージョン3.0以下の製品と通信可能

◆Class

Bluetoothには電波強度の違う3つのClassがあり、出力が高いほど電波の通信距離が長くなります。

異なるClassの機器同士でもペアリングは可能ですが、電波の到達距離は短い方が採用されます。

 

現在多くのBluetooth機器で使われているのは、Class2です。Class3はほとんど見かけません。

 

クラス 出力 通信距離
Class 1  100mW 10m超~100m(注)
Class 2  2.5mW 1m超~10m
Class 3  1mW 最大1m

(注)Bluetooth5.0では400m


◆プロファイル

BluetoothのプロファイルはBluetoothの標準仕様の一つで、機器や機能の種類ごとに標準の通信方式や操作手順などを定めたものです。

 

Bluetoothは汎用性が高く、様々な機器がBluetoothを利用してデータ交換ができますが、機器ごとの個別の仕様にいちいち合わせるのでは大変です。そこで、製品の特性ごとに、ある機能を呼び出すために、どのような順番やタイミングでどんな形式のデータを伝送すべきか、という機器の「使い方」にあたる手順(プロトコル)を共通化したものがプロファイルです。

 

業界団体のBluetooth SIGが、機器の種類ごとに標準のプロファイルが策定しているほか、メーカーが自社固有の機能を実装した独自のプロファイルを提供することもできることになっています。

機能の提供側と利用側が同じプロファイルに対応していれば、機器ごとの個別の仕様に対応することなく通信することができます。

 

下表は主なプロファイルの例です。

プロファイル名 用途
A2DP  Advanced Audio Distribution Profile デジタルオーディオプレイヤーとヘッドホン間などで用いられる、ステレオ音質のオーディオデータをストリーミング配信するためのプロファイル 
AVRCP Audio/Video Remote Control Profile デジタルオーディオプレイヤーとリモコン間などで用いられる、操作対象デバイスをリモコンからリモート操作するためのプロファイル
BIP Basic Imaging Profile スマートフォンとプリンタ間などで用いられる、画像の送受信や印刷のためのプロファイル
BPP Basic Printing Profile スマートフォンとプリンタ間などで用いられる、電子メールや画像、テキストなどの印刷のためのプロファイル
HDP Health Device Profile 健康管理機器を接続するためのプロファイル
HFP Hands-Free Profile スマートフォンと ヘッドセット間などで用いられる、電話の発着信や通話を行なうためのプロファイル
HID Human Interface Device Profile キーボードやマウスをBluetoothの無線接続経由で使用するためのプロファイル
HSP Headset Profile PC・スマートフォン - ヘッドセット間などで用いられる、音声入出力を行なうためのプロファイル
OPP Object Push Profile スマートフォン間のオブジェクト(電話帳やスケジュールのデータなど)を交換するために使用されるプロファイル
PAN Personal Area Network Profile 1台のパソコン(マスタ)を中心として、複数のパソコン(スレイブ)と無線接続を行なうためのプロファイル
VDP Video Distribution Profile ビデオカメラとモニタ間などで、ビデオデータをストリーミング配信するためのプロファイル

赤外線通信、Bluetooth、Wi-Fi比較

  赤外線 Bluetooth 無線LAN(Wi-Fi)
通信手段  光波(低赤外線) 電波(2.4GHz) 電波(2.4GHz、5GHz)
主な用途

リモコン

 (AV機器、エアコンなど)

携帯電話同士のデータ通信

 

 

ハンズフリー通話

(ヘッドホン、スピーカーなど)

パソコンの入出力

(キーボード、マウスなど)

IT機器の相互相互接続によるネットワーク化

(パソコン、プリンタ(複合機)、スマートフォンなど)

 

指向性 指向性が高く、機器同士が真っすぐに向かい合っていないと通信ができない 指向性が低く、機器の方向を意識しなくても良い。多少の障害物は回り込んで通信ができる 指向性が低く、機器の方向を意識しなくても良い。多少の障害物は回り込んで通信ができる
通信速度

(IrDA)低速

最大 115Kbps~16Mbps

中速

最大 24Mbps

高速

最大 9.6Gbps

通信距離

至近距離

(IrDA)

 小電力 最大 20(30)cm

 標準  最大 1m

(リモコン)

 正面  最大 約10m

短距離

 クラス1 最大 約100m

 クラス2 最大 約10m

 クラス3 最大 約1m

 

 

中距離

 最大 数10m~数100m

 

 

 

 

省電力性

省電力

(IrDA)

省電力(数10mW?)だが、ブルートゥースに比べると大きい

 

最も省電力

 クラス1 最大出力 100mW

 クラス2 最大出力 2.5mW

 クラス3 最大出力 1mW

省電力性よりも高速通信を優先

通信時の消費電力は1.5W(受信1W、送信2W)程度。

待機時も電力を消費する。

 

機器接続

1対1の通信のみ

事前の設定は不要

 

 

1対多の通信が可能

ペアリングという方法で、機器同士を事前に接続しておくことが必要

多対多の通信が可能

予め機器を無線LAN親機(ルータやアクセスポイント)に接続しておくことが必要

電波干渉 機器同士を直接向かい合わせてボタンを押した時に通信するため、電波の干渉はない 2.4GHzの電波帯のため、無線LANや電子レンジなどの電波と干渉することがある 2.4GHzの電波帯の場合、無線LANや電子レンジなどの電波と干渉することがある