テレワーク

新型コロナ感染症拡大の影響もあって、日本でもテレワークが急速に普及しましたが、一方で、コロナ終息後はテレワークを縮小するという企業も少なくないようです。

とはいえ、政府も「働き方改革」のひとつの方策としてテレワークの推進を図っていますので、多くの企業でテレワークが特別なことでなくなる時代が近づいているのは間違いありません。

 

ここでは、テレワークの定義、メリット・デメリット、日本政府の施策などについて解説します。

 

テレワークの定義と形態

厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイト日本テレワーク協会の定義によれば、「テレワークとは、ICT (情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」となっています。

テレワーク(telework)は文字通り、離れた所(tele-)と働く(work)を組み合わせた造語で、リモートワーク(remote work)とも言われます。

 

英語ではtelecommuting(テレコミューティング)という用語もありますが、日本では(世界でも)あまり使われていないようです。

日本では、公的機関などではテレワークという用語に統一しているようです。海外ではテレワークよりもむしろ、WFH(Work from Home、あるいはWork from Hotel)とか、Work from anywhereという呼び方をしている場合が多いようです。

 

テレワークは、働く場所の違いで次の形態があります。

 

在宅勤務

端的に言えば、職場に行くことなく、自宅を就業場所とする働き方のことです。

テレワークと聞いてまず思い浮かべるのは、この在宅勤務のことでしょう。

通勤時間が削減できて、移動による身体的な負担も軽減できます。

 

モバイル勤務(モバイルワーク)

出張や営業活動などで、移動中の交通機関や顧客先、カフェ、ホテル、空港のラウンジなどを就業場所とする働き方です。営業職などの頻繁に外出する業務の場合、隙間時間・待機時間に効率的に業務を行うことができます。また、直行・直帰を活用すれば、わざわざオフィスに戻って仕事をする必要がなく、ワークライフバランス向上にも効果があります。

 

サテライトオフィス勤務(サテライト/コワーキング)

企業が通常のオフィスとは別に設置した小規模なオフィスをサテライトオフィスと言います。サテライトオフィス勤務とは、そのようなサテライトオフィスや、テレワークセンター、スポットオフィス等のコワーキングスペースを就業場所とする働き方を言います。

一般的には、通常のオフィスよりは近くの場所で、通勤が楽になります。

 

ワーケーション

ワーケーション(workcation:日本ではworkationと表記されることが多い)は、働く(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、観光地や帰省先など、自宅以外の休暇先で、テレワークする働き方のことです。仕事が忙しくても、旅行や帰省ができることをメリットとしており、国も、環境省を中心に、ワーケーションの普及促進を図っています。

 

テレワークの導入状況

コロナ禍以前(2019年まで)

総務省の令和元年通信利用動向調査報告書(企業編)によれば、2019年9月現在の日本の企業のテレワーク導入割合は約2割(導入予定の企業も含めると約3割)で、年々増えている状況でした。

 

特に、在宅勤務の導入割合が増えています。

 

産業別では、情報通信業(46.5%)、金融・保険業(40.7%)における導入割合が高く、企業規模では1,000人以上の従業員数の企業(導入割合約5割)とそれ以下の企業(同約2割)では、大分差がありました。

 

テレワークを利用する従業員の割合は10%未満が約5割で、ほとんど変化していませんでした。

 

 

テレワーク導入状況(コロナ禍以前)
テレワーク導入状況(コロナ禍以前)
テレワーク導入形態(コロナ禍以前)
テレワーク導入形態(コロナ禍以前)

コロナ禍による利用拡大

(独)労働政策研究・研修機構が2021年4月に発表した「第3回新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」結果によると、1月末現在、テレワークの実施経験のある企業は約4割で、内訳は「導入後継続的に実施している」が23.4%、「いったん停止したが、再開した」が6.8%、「過去導入したが現在は導入していない」が10.3%とのことです。

 

テレワークの導入目的は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大への対応」(80.3%)が最も高く、「通勤負担の軽減」(33.8%)、「通勤者のゆとりと健康生活」(16.9%)、「自宅待機代わり」(14.6%)などを大きく上回っています。

 

第1回の調査(2020年7月発表)から、継続して回答した企業のみの推移を見ると、2020年4月、5月がピークで5割強、6月以降は年末に向かって3割強まで徐々に下がり、年末以降、感染再拡大を受けて4割強に増えているという状況です。

 

これらの結果を見ると、日本では、コロナ感染症対策としてテレワークの導入に踏み切った企業が多いものの、テレワークが定着した企業はわずかということでしょう。

 

コロナ感染症とテレワーク導入企業割合の推移(数字は各調査時点の回答企業のテレワーク導入割合)
コロナ感染症とテレワーク導入企業割合の推移(数字は各調査時点の回答企業のテレワーク導入割合)
コロナ禍によるテレワーク導入推移(過去3回調査の継続回答企業452社) 出典:(独)労働政策研究・研修機構
コロナ禍によるテレワーク導入推移(過去3回調査の継続回答企業452社) 出典:(独)労働政策研究・研修機構

テレワークのメリットとデメリット

日本政府は成長戦略の一環として「働き方改革」を掲げ、その有力な手段として企業等への「テレワークの導入」施策を推進しています。テレワークは企業や個人だけでなく、社会にとってもメリットがあるからです。

社会、組織(企業など)、個人(社員など)に分けて、メリットとデメリットを整理すると、以下になります。

テレワークのメリット

【社会】

  • 労働人口減少の緩和     高齢者などの就業機会増加、育児・介護などによる離職防止
  • 雇用創出          高齢者・障がい者、地方移住者などの就業機会の増加
  • 地域活性化(地方創生)   地方移住者・サテライトオフィス・ワーケーションの増加
  • 環境負荷軽減        二酸化炭素排出削減、電力等の消費削減、ごみ排出削減

【組織(企業など)】

  • 人材確保・人材獲得     離職防止や多様な人材の活用
  • 組織運営の変革促進     働き方改革、デジタル化促進、ダイバシティ経営、グローバル対応など
  • コスト削減         オフィスコスト・通勤コスト・光熱費
  • 事業継続性の確保(BCP対策)
  • 生産性・営業効率性・顧客満足度の向上
  • ブランドイメージの向上

【個人(社員など)】

  • ワークライフバランスの向上 家族と過す時間や趣味の時間の増加
  • 育児・介護・病気治療と仕事の両立
  • 通勤のストレス軽減     混雑などの不快感、事故やウイルス感染などの危険性などの軽減
  • 働く場所や服装等の自由度拡大
  • 多様な働き方の実現可能性拡大

テレワークのデメリット

【組織(企業など)】

  • 勤怠管理が複雑化する    労働時間の管理が難しい
  • コミュニケーションが取りづらい
  • セキュリティリスクが高まる
  • 社員のマネジメントや評価がしにくい
  • テレワークはICTを活用した業務に限定される

【個人(社員など)】

  • 自己管理が難しい
  • 在宅勤務では、仕事とプライベートの切り分けが難しい
  • 長時間労働になりやすい
  • 運動不足になりやすい

テレワーク推進施策

政府は総務省を中心に、2007年(平成19年)頃より様々なテレワークの推進施策を実施しています。

 

日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」(平成25年6月)には、「男女が共に仕事と子育て等を両立できる環境の整備」の方策のひとつとして、「テレワークの普及に向けた新たなモデル確立のための実証事業の実施等による多様で柔軟な働き方の推進」を掲げています。

さらに「日本再興戦略 2016 ー第4次産業革命に向けてー」(平成28年6月)では、「働き方改革の実行・実現」に向け、「テレワークのような柔軟な働き方について、企業の生産性向上に貢献する在り方を調査分析・公表すること等により、活用促進を図る。」と、生産性の高い働き方を実現している方法の例としてテレワークを挙げて、内閣官房IT室は以下の具体的な2020年までの政府目標を掲げました。(出典:テレワーク推進に向けた政府の取り組みについて:総務省、平成28年6月)

  • テレワーク導入企業を2012年度比で3倍
  • 週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上

これらを背景に実際されてきた推進施策については総務省の「これまでのテレワーク関連施策」ページを参照ください。

 

2020年7月、政府は、コロナ禍を背景に、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画の変更について」において、さらにいっそうテレワークを推進する意向を表明しました。

特に、テレワークの普及には、推進のための人材育成・普及啓発が重要として以下を掲げています。

  • テレワークは、働き方改革を推進するに当たっての強力なツールの一つであり、また今般の新型コロナウイルス感染症対策として人と人との接触を極力避け、業務継続性を確保するためにも不可欠なものであり、具体的かつ効果的な形で普及が進むようにすることが課題(である)。
  • このため、テレワークの普及に当たっては、関係府省庁が連携し、テレワークに必要なITシステム導入支援、専門家による相談体制やサテライトオフィス、必要なネットワーク環境の整備、ガイドラインの周知等に取り組むとともに、企業の取組を踏まえつつ、テレワーク・デイズやテレワーク月間の実施や表彰等の周知による啓発にも取り組む。KPIの目標値達成については、緊急事態宣言を受けた企業の取組の状況を踏まえた上で設定する。
  •  国家公務員のテレワークについては、「デジタル・ガバメント実行計画」に基づいて推進する。
  •  緊急事態等における企業及び行政の事業継続性を確保するとともに、働き方改革の一助となり、労働者、事業者及びその顧客にとってワークライフバランス、生産性、満足度等の向上を実現(を図る)。
  • KPI(進捗): テレワーク導入企業の割合及びテレワーク制度等に基づく雇用型テレワーカーの割合(新型コロナウイルス感染症への対応状況及びその後の社会情勢の変化を踏まえて設定)
  • KPI(効果): 緊急事態等における事業継続性の確保、働く者にとって効果的なテレワークを推進

主なテレワークの具体的施策

【テレワーク・サポートネットワーク事業(総務省)】

テレワークの導入を支援するために、相談会の実施、地域の相談窓口の設置、テレワークの専門家(テレワークマネージャー)の紹介などを行います。 専用サイト

【テレワークマネージャー相談事業(総務省)】

テレワークの専門家(テレワークマネージャー)の派遣要請を受け付け、派遣します。 専用サイト

【テレワーク・デイズ(総務省・経済産業省など)】

総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府、東京都および関係団体が連携して、2017年より実施している、テレワーク、時差出勤、フレックスタイム、ワーケーション等を組み合わせた多様な働き方の推進運動です。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の交通混雑緩和、および新型コロナウイルス感染拡大の防止も狙っています。

テレワーク・デイズ2021の実施期間は、7月19日(月)~9月5日(日)となりました。 専用サイト

【テレワーク総合情報サイト(Telework Net)(総務省)】

総務省が運営するテレワークに関する情報サイトで、テレワークの導入事例や、テレワーク導入にあたって活用可能な支援策のほか、地方のサテライトオフィス等においてテレワークにより仕事を行う「ふるさとテレワーク」に関する情報などを掲載しています。 専用サイト

【テレワーク総合ポータルサイト(厚生労働省)】

厚生労働省が運営するテレワークに関する様々な情報を提供するサイトで、企業や従業員などからの相談や資料請求などに対応しています。 専用サイト

【HOME WORKERS WEB 自営型テレワークに関する総合支援サイト(厚生労働省)】

Home Worker(在宅ワーカー)あるいはこれから在宅で仕事をしたい人を支援するために、厚生労働省が運営するサイトで、仕事の見つけ方、契約の仕方などのガイドや留意点を紹介するほか、セミナーなども案内しています。 専用サイト