CRM・SFA

CRM(Customer Relationship Management)は、文字通り「顧客関係管理」を意味しています。顧客の情報を収集・分析して、最適で効率的なアプローチを行い、自社の商品やサービスの競争力を高める経営手法、あるいはそのためのシステムのことです。

SFA(Sales Force Automation)は「営業支援システム」を意味しており、営業担当者の属人的な知識・知見・経験・勘に頼るのではなく、顧客情報や案件の進捗、商談事例等のデータを共有し、営業プロセスを標準化して、営業活動を組織的・効率的に展開するという考え方に基づいて発展してきたシステムです。

 

どちらも、1990年代に米国で生まれた言葉で、CRMは「マスマーケティング」の効き目が薄れ、顧客理解、あるいは顧客データに基づく「ワンツーワンマーケティング」の必要性が高まり、それを実現するためのツールが求められたことがきっかけとされています。

一方のSFAは、OA(Office Automation)化の流れの中で、営業業務もITの活用によって自動化・効率化を進めようという考えで開発されました。

 

このようにCRMとSFAは、誕生の背景も、そもそもの目的も異なります。

ですが、CRMもSFAも顧客情報の管理機能を有していること、主な利用者が広い意味での営業部門であるということもあって、CRMとSFAが混同されたり、最近では多くのCRMとSFAがセットのシステムとしてサービス展開されたりしていて、自社にはCRMとSFAのどちらを選べば良いか迷ったりする場合もあるようです。

 

ここでは、CRMとSFAの共通点と違い、およびそれぞれの基本的な機能を中心に解説するとともに、クラウド型の主なCRM、SFAのシステムを紹介します。

 

CRMとSFAの共通点と違い

CRMとSFAの共通点

データに基づく顧客理解

CRMもSFAも、顧客情報を管理・分析して、顧客の状況やニーズ、購買意欲を把握することを手法の要にしています。つまりデータに基づいて顧客理解を深めるという点では共通しています。

 

マーケティングと営業の連携

CRMもSFAも、マーケティング組織と営業組織のそれぞれが保持していた顧客情報を、共有あるいは統合して一元管理することが必要とされています。そうすることで、自社と顧客との関係が、「いま、どのような状態にあるか」がより正確に把握でき、マーケティング組織と営業組織が連携して顧客に対応(お得意様への販売強化・サービス強化やクレーム対応など)することがしやすくなるからです。

 

目指すは売り上げ増

CRMもSFAも、営業、マーケティング、カスタマーサポートなどのフロント系の業務で利用して売り上げの維持・向上を目指すものです。売上の向上を目指して、いかに多くのお得意様を作るかがCRMのテーマであり、いかに効率的で有効な営業活動を展開するかがSFAのテーマなのです。

 

CRMとSFAの相違点

基本機能の違い

CRMは顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を目的としており、きめ細かい顧客情報の収集・分析に基づいたマーケティング機能、販促キャンペーンのDM発信などのプロモーション機能、顧客からのクレーム対応などの顧客サポート機能が基本となっています。CRMで作成されるレポート類は顧客分析系のレポートが主体です。

一方、SFAは営業活動の精度向上と効率化を目的としており、見込み客を含めた顧客情報の管理機能、商談の進捗、受注や売上見込みなどの案件管理機能、営業担当者のスケジュール管理・行動管理、営業日報や見積書・請求書作成などの営業支援機能が基本となっています。SFAで作成されるレポート類は売上分析系のレポートが主体です。

 

管理対象の顧客の違い

CRMが管理の対象とする顧客は、基本的には少なくとも1回は接触したことのある既存の顧客で、その顧客との良好な関係性の構築・維持を図ることがCRMの最大の役割となります。

SFAでは、自社の商品やサービスに関心のある見込み客も管理の対象として、見込み客を顧客に変えるような営業活動を支援することもSFAの大事な役割になります。

 

顧客情報の階層の違い

一般的に、SFAとCRMでは顧客情報管理で管理できる階層が異なります。SFAは基本的な顧客情報に加えて案件内容(顧客のニーズや課題、興味を持っている製品やサービスなど)や商談履歴、各顧客に対する行動履歴などの情報を管理します。一方CRMでは、顧客の基本情報から過去の取引履歴や問い合わせ履歴、クレーム内容などを管理します。

 

BtoCにはCRM、BtoBにはSFA

消費者と企業のいずれもCRMやSFAの顧客情報管理の対象となり得ますが、CRMはどちらかと言えばBtoC、つまり消費者を直接顧客として管理することに向いていて、SFAはどちらかと言えばBtoB、つまり企業を顧客として管理する場合に向いていると言えましょう。

 

CRMとSFAの基本機能

今日のCRMシステムにはSFA的な機能が、逆にSFAシステムにはCRM的な機能が組み込まれているものが少なくありません。

ただ、それぞれの基本機能は以下のようなものが標準的であるとご理解ください。

 

CRMの基本機能

CRMの基本機能は大きく「顧客情報データベースの管理」「顧客分析・マーケティング支援」「プロモーション」「顧客サポート」の4つに分けられるでしょう。

 

顧客情報データベースの管理

CRMの柱である「顧客情報データベース」にはどのような顧客情報を保持し、どのようにその情報入手・更新するかは、CRMシステムを導入しする企業等にとって大変重要です。

顧客の氏名(会社名・担当者名)や年齢、性別、住所、電話番号、メールアドレスなどの基本情報に加え、CRMの導入目的によって、例えば以下のような様々な情報が顧客単位に紐づけて管理されます。

 ・購買日・購買金額・購買頻度などの購買履歴

 ・問い合わせ対応、クレーム対応、顧客満足度調査回答などの履歴やその内容

 ・キャンペーンの応募やクーポンの取得などの履歴

 ・顧客の属性(例:ポイント制度などと連携した顧客ロイヤルティ度合など)

 

このような細かな顧客情報は、取得する場所やツールも複数にまたがる場合が多いです。イベント会場のようなオフラインでのデータ取得もあれば、ECなどのWebサイト上を通じて得られる情報もあるでしょう。それぞれ別のシステムが稼働している場合もありますが、CRMの特徴の一つに、複数のシステムと連携し、データを一元的に管理できるという点があります。

 

顧客分析・マーケティング支援

顧客ロイヤルティを高めるためのマーケティング活動やカスタマーサポートなどに重要な役割を果たす機能の一つが「顧客分析」です。顧客情報データベースに顧客の購買履歴などが蓄積されていくことによって、顧客ごとの趣向や行動傾向などを知ることができます。それをもとにマーケティング戦略だけでなく、ひいては経営戦略を立てることも可能となります。

目的に合ったCRMシステムを導入することで、詳細な顧客情報データベースをもとに、定期的にあるいはリアルタイムに多角的な分析ができ、PDCAサイクルを通してマーケティングの精度を高めることが期待されます。

  

CRMには、ECサイトなど複数のチャネルから集めた顧客情報を統合し、マーケティングの支援に活用できる機能があります。年齢や性別、居住地や商品の購買履歴といった情報を管理、分析することで顧客のニーズにあわせたアプローチや情報提供がしやすくなります。近年ではCRMに蓄積された顧客情報をもとに、会員ランクのアップダウンや商品購買の確率をスコア化したり、ターゲットごとに効果的なマーケティング施策をレコメンドするAIソリューションも登場していますので、それらの外部システムとの連携によって、いわゆるOne to Oneマーケティングの実践が可能になるという点も、CRMの特徴の一つです。

 

プロモーション

CRMシステムでは、顧客情報データベースから購買金額や購買頻度、直近の購買日など、さまざまな条件で顧客を抽出でき、最適なターゲットにメールマガジンやDMを配信したり、優良顧客にクーポンや優待券を送信したりする機能が備わっています。キャンペーン、セミナー・イベントなどの管理ができるCRMシステムもあります。

最近では多様なソーシャルメディアと連携して、ソーシャルメディア上の口コミから商品やブランドの評価コメントや要望を入手するとともに、ソーシャルメディア上の口コミを使ってを認知を広めたりできる「ソーシャル機能」を備えているCRMシステムも出てきました。

 

顧客(カスタマー)サポート

製品やサービスを多くの顧客に提供する企業にとって顧客サポートは、企業収益の向上を図るうえで非常に重要な役割を担っています。商品購入後や、サービスを提供した後のアフターケアにおいて、顧客からの問い合わせへの対応スピードと質はとくに重要です。多くのCRMシステムには、コールセンターなどとも連携する「問い合わせ管理」機能が備わっていて、問い合わせやクレームを上げてきた顧客の購買履歴といった機械的に取得できるデータだけではなく、顧客からの問い合わせ内容などもすぐに把握できるようになっています。

 

SFAの基本機能

SFAシステムの基本機能は大きく「顧客情報の管理」「案件・商談の管理」「営業プロセスの標準化と効率化」「営業活動の分析」の4つに分けられるでしょう。

 

顧客情報の管理

CRM同様、SFAでも中心になる機能のひとつが顧客情報を管理するための機能です。顧客ごとの社名、所在地、電話番号、規模、決裁者、担当者、各人の役職などをデータベース化して、組織全体で共有することが基本となります。

一般的にSFAにおける顧客情報管理では、さらに、案件内容や商談履歴、各顧客に対する営業担当者の行動履歴などの情報が紐づきます。

 

案件・商談の管理

案件管理は、見込み客(セールスリード)にアプローチして受注に繋げるまでの過程を管理するための機能です。具体的な管理項目としてはセールスリード情報(接点情報を含む)、営業担当者、提案の商品・サービス、営業活動の進捗状況、受注見通し、受注見込額、最終的な結果(受注・失注)などです。

商談管理は各案件についての具体的な商談の履歴と内容を記録し、組織で共有するための機能です。具体的には、商談を実施するごとに商談日時、商談目的、商談相手と営業担当者などの応対者、商談内容(提案事項や金額)、商談結果の評価(進捗)、課題などの情報を管理します。

商談内容や履歴を見れば、案件ごとの経緯や進捗を把握でき、上司が的確に指示を出したり、過去の案件をケーススタディとして掘り起こすことで、効率良く営業活動を進めていくこともできるでしょう。

 

営業プロセスの標準化と効率化

SFAシステムでは、案件管理・商談管理の機能に加えて、営業担当者のスケジュール管理、タスク管理、ToDoのアラート、営業日報の作成、見積書・請求書の発行などの機能を備えていて、営業活動における各種プロセスの標準化と効率化、組織全体の営業活動の共有化、営業業務の可視化を図ることを可能としています。

クラウド型などの最近のSFAシステムでは、スマートフォンなどから営業担当者が外出先でも商談情報や日報を簡便に作成できるなど、さらに営業活動の効率化を進めることができるでしょう。

 

営業活動の分析

SFAシステムには、営業担当者ごとや組織全体での顧客別・商品別・サービス別などのさまざまな角度から売上予測と実績をレポートしたり、訪問回数、提案した商材数、成約率などを算出し、営業担当者の課題、長所などの分析と評価を可能にするなど、数値化により現状を客観的に把握するための機能が備わっています。

 

主なCRMシステム(クラウド型)

日本では、CRMはまず、コールセンターでの問い合わせやクレーム対応のためのシステムとして金融機関を中心に導入されました。その後、携帯電話やインターネットの普及に伴い、ホームページやeメール、携帯電話などの顧客接点を最大限に活用した、より効率的に顧客満足を得ようとするもの(eCRMと呼ばれます)の開発・導入が盛んに行なわれました。

大企業を中心に、SAPなどのERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の導入が広まると、CRMとERPを連携するために、導入するERPのベンダーが提供するCRMパッケージを採用する事例が増えました。

 

現在では、SFAの機能を合わせ持つクラウド型のCRMを利用が進んでいます。SFAが主体なものはSFAシステムとして後述します。

マーケティングや顧客サポートを主体とするクラウド型の主なCRMシステムを下表に纏めました。

製品名 提供会社 利用社数 利用料金 特長・備考

Salesforce

 Service Cloud

 Marketing Cloud

セールスフォース・ドットコム 世界20万社以上

 

不明

世界で最も利用されているCRM

 Service Cloud:顧客サービス

 Marketing Cloud:マーケティング

カスタマイズ性が高い

多機能な海外製なので、使いこなしにITの知見が必要

Oracle CRM

 Service Cloud

 CX Marketing

オラクル 不明 不明

オンプレミス型も選択可能

大企業の利用が多い

 Service Cloud:顧客サービス

 Marketing Cloud:マーケティング

 

Zoho CRM Zoho 世界4万社以上 1,440円~/名・月

マルチチャネルの一元管理

機能が多いため使い勝手は良くない

Synergy! シナジーマーケティング 7,000件以上

 

初期148,000円~

25,000円~/月

国産のCRMシステム

顧客情報管理・データ収集・情報発信のシンプル機能で使いやすい

CRMate

 

富士通 不明 55,000円/10名・月

コールセンター業務向けのCRM

オンプレミス型も選択可能

主なSFAシステム(クラウド型)

現在では、高価格・高機能なものから低価格なものまで、幅広く存在していて、国内だけでも40種類以上の製品があります。大企業や中堅企業などでは、自社開発をしたり、世界的にも有名なSalesforceをベースとしたパッケージをカスタマイズして利用しているところも多いようです。

 

アイティメディア社のキーマンズネットの「SFAの利用状況(2021年)/前編」によれば、有効回答社の約半数がSFAを導入済みで、内約6割がクラウドサービスを利用、パッケージ型、自社開発はそれぞれ約2割とのことです。近年はクラウドサービスを導入する傾向にありますので、ここでは、クラウド型で利用社の多いもののみを紹介します。

製品名 提供会社 利用社数 利用料金 特長・備考
Sales Cloud  セールスフォース・ドットコム

世界20万社以上

日本6,000社以上

9,900円~/名・月

世界で最も利用されているSFA

カスタマイズ性が高い

多機能な海外製なので、使いこなしにITの知見が必要

eセールスマネージャー Remix Cloud ソフトブレーン 5,500社以上 11,000円~/名・月

国内製品

名刺管理や地図機能などが充実

オンプレミス製品も販売

Microsoft Dynamics 365 Sales マイクロソフト

不明

(日本1,000社以上)

7,070円~/名・月

Office365と統合したCRM/SFA

ExcelなどのOffice製品とシームレスな連携

SAP Sales Cloud SAP 世界25万社 問い合わせ

ERPとしてSAPを利用している企業向けのSFA

多機能な海外製なので使いこなしにはITの知見が必要

Knowledge Suite

 SFAパッケージ 

ナレッジスイート 6,500社 55,000円~/月

Knowledge Suiteはグループウェア・SFA・CRM・問い合わせ管理などがオールインワンになったクラウドサービス

SFA機能(GRIDY SFA)単体ではなく、グループウェア他とのパッケージでサービス展開

monday.com

OrangeOne 10万社以上 1,100円~/名・月

低コストな簡易SFA

その他にも、Salesforce EssentialZoho CRMi-CRMなど多数あります。