携帯メールとSMS

1990年代半ば頃からは、第2世代の携帯電話が普及し始め、携帯電話での電子メール利用が始まりました。海外ではSMSが、日本ではショートメールサービス(一種のSMS)と携帯メール(キャリアメール)が広まりました。

 

ここでは、日本で独特の進化を遂げた携帯電話会社のメールサービスである、携帯メールとショートメールサービスについて解説します。

 

SMSとは

海外のSMS

日本の携帯電話会社のサービスを解説する前に、海外の携帯電話会社が提供しているSMS(Short Message Servise)とその進化系であるEMS(Enhanced Message Service)とMMS(Multimedia Message Service)に触れておきます。

 

SMSとは、携帯電話やPHS同士で短いテキスト文を送受信するサービスのことです。eメールのようなメールアドレスは不要で、送信相手の携帯電話番号を宛先としてメッセージを送信します。

送信できる文字数には制限があり、携帯電話会社によって多少の違いがありますが、半角文字で90または160文字以内、全角文字で45または70文字以内です。

 

メッセージはSMSセンターを経由して送信する仕組みになっていて、送信先の携帯電話の電源が入っていて受信圏内にあれば、自動的に受信が行われ、送信元には受信された旨の通知が戻ります。携帯電話網の信号チャネルを利用しているので、電話中であっても受信できます。送信できなかったり受信がうまくいかなかったりしたときは、通常は受信が可能になった段階で再度送信されます。

 

SMSは第2世代の携帯電話サービスのひとつとして、1984年に考案されて国際標準規格となり、日本を除いた世界共通のテキストメッセージサービスとして定着しました。

異なる携帯電話会社間でもSMSのやりとりが可能な上、携帯電話のサービスとしては通話よりも安価なため、若い世代を中心にSMSの送受信が頻繁に行われるようになりました。

 

携帯電話の高機能化の過程で、携帯電話のメッセージサービスは、文字の大きさを変えたり画像や音声、簡単なアニメーションなどを入れたりできるようにしたEMSや、さらにカラー画像や動画を入れられるようにしたMMSが生まれました。しかし、EMSやMMSは、双方の携帯電話端末がそれらに対応している必要があるのに対して、SMSはすべてのG携帯電話端末に必ず実装されていて、メッセージあたりの単価が大幅に安く、かつ即時性が高いことから、携帯端末間の短文通信では、依然としてSMSが主流になっています。

 

日本のSMS(ショートメールサービス)

第2世代(2G)の携帯電話端末以降、日本では携帯電話が独特の発達を遂げました。

 

実は、日本では携帯電話が普及する前の1992年頃から、受信専用のポケットベル(ポケベル)を使う独特の文化が女子高生を中心に広まっていました。ショートメールの効用を体得していたのは、女子高生を始めとする若者たちでした。

 

ポケベルには電話番号が割り当てられていて、固定電話や公衆電話からポケベルに電話をかける時に同時に数字を送ると、ポケベルにその数字が表示されるというもので、外出中のビジネスマンに折り返し電話を促す場合などに使われていました。女子高生たちは、数字の語呂合わせで友達とのコミュニケーションに応用しました(例:0833おやすみ、4649よろしく、114106あいしてる)。やがて、プッシュホン型の電話機からは、1文字目と2文字目の数字の組み合わせで、ひらがな、英数字、一部の記号などで日本語の文章を送って(ポケベル打ちと呼ばれていました)、ポケベルで表示させることができるようになり、ブラインドタッチでその入力ができる女子高生も現れました。

第2世代の携帯電話の普及と並行して、簡易型携帯電話としてのPHSサービスが始まると、機器や通信料の割安感から若年層を中心にPHSが普及し、さらに携帯電話に先立ってPHSでショートメールサービスが始まる(1996年)と、ポケベルユーザーがPHSに乗り換えていきました。

 

NTTドコモがショートメールサービスを開始したのは1997年で約1年後のことです。他の携帯電話会社もすぐに追随しました。

 

ショートメールサービスは携帯会社間の競争ツールのひとつとして、各社それぞれに名称が異なりました。例えば、NTTドコモでは「ショートメール」、旧DDIセルラーグループ(現KDDI(au))では「Cメール」という名称が付けられました。(ここでは、代表して「ショートメールサービス」と記述しています。)

スマートフォンが普及したので、これらの名称は、徐々に「SMS」で統一されつつあります。

 

日本では大手携帯電話会社の通信方式が異なることもあって、このショートメールサービスは各社独自のもので、相互間の接続ゲートウェイの開発もされず、会社間をまたがってのショートメールは送信できませんでした。(ショートメールサービスの相互接続が実現したのは2011年になってからです。)

 

仕組みとしてはポケベルの技術を応用したポケベル打ちの入力方式と端末側で新たに開発された文字入力方式がありましたが、やがて後者に移っていきました。

 

送受信可能な最大文字数は全角、半角とも50文字でした。その後、全角で70文字、半角で140文字が一般的になり、相互接続ではこれが上限になっていますが、同一キャリア、同一ネットワーク内はそれぞれ文字数の制限が異なっています。

 KDDI(au)   670文字(2017年5月26日より)

 NTTドコモ  670文字(2017年10月30日より)

 ソフトバンク 送信70文字(iPhoneは670文字)、受信670文字

 

ショートメールサービスは、各社とも、音声通話とは別に1通当たり税別で3円程度の料金体系となっています。

 

第3世代(3G)携帯電話の時代になって、海外ではイメージや動画を送れるMMSが世界標準となると、機能的に競合する携帯メールを抱えていた日本の事業者は、世界標準のMMSへの対応を迫られることになりました。ソフトバンクの「S!メール」とKDDI(au)の「Cメール」は既にMMSに対応しています。NTTドコモはMMSに直接的には対応しておらず、iモードメールに変換する処置をとっています。

 

災害に強いSMS

インターネットサービスやeメールは、パケット通信網での通信なのに対し、電話やSMSは、回線交換(音声通話)網上での通信です。回線交換方式の仕組みをさらに細分化すると、音声を通す音声回線(無線ではトラフィックチャネル)とそれを制御する信号線(無線ではシグナリングチャネル)から構成されています。

SMSは、回線交換網上で提供されるサービスですが、実際に音声を流すことはなく、テキストメッセージを信号線(シグナリングチャネル)で運ぶことによりサービスが実現されています。

 

音声回線(トラフィックチャネル)よりもデータ量が軽い信号線(シグナリングチャネル)のみでサービスが提供されいることから、一般的に電話よりも災害に強いと言われています。

緊急時にSMSを用いるメリットとしては、電話応対と違って、相手の呼び出しを待つことなく、素早く用件を送ることができ、少なくともそのメッセージが届いたかどうかを確認できることです。

また、大規模な災害発生時には、被災地域への連絡が集中することにより、パケットネットワークや回線交換ネットワークにおいても通信規制がかかりやすくなり、電話による連絡がとりにくくなります。その点SMSは、回線交換方式におけるシグナリングチャネルを使用しているので、音声を運ぶトラフィックチャネルを使用する際のデータ量の十分の一以下でデータ送信を完了することのできるサービスです。そのため、通信回線に負担をかけずに連絡を取るための有効な手段と言えます。

 

東日本大震災においては、SMSは有効活用されませんでした。その大きな要因は、SMSを緊急時に活用する土台が整っていなかったことに起因します。当時のショートメールサービスは会社間を跨ったショートメールを送ることができなかったのです。そのため、安否確認のために一斉送信を送るような手段もなく、緊急時の連絡手段としての有用性の認知も低かったため、その潜在的な利便性を十分に機能させることができませんでした。その反省から、2011年7月にショートメールの相互接続サービスが開始されたのです。

また、SMSを利用して関係者に対し一斉に安否確認を行うようなサービスも種々生まれ、緊急時においてSMSを活用する土台が整いつつあります。

 

携帯メール

携帯電話会社間の競争が激化し、様々な機能の開発競争が起こりました。「着メロ」もそのひとつで若者たちに受け入れられました。もっとも特徴的だったのは、携帯メールのサービス開始です。

 

1999年、NTTドコモがiモード、旧DDIセルラーグループ(現KDDI(au))がEZweb、旧ボーダフォン(現ソフトバンク)がスカイメールという名称で、世界に先駆けて、携帯電話を使ったインターネットサービスが開始されました。電子メール機能も、それまでのショートメールに加えて、携帯メール(キャリアメール)が提供されました。携帯メールを使えば、インターネット経由で、他携帯会社の携帯メールにもメール送信できる利便性が評価されました。

ショートメールサービスや携帯メールで、絵文字の利用ができるようになったのもこの頃です。

 

さらにカメラ内蔵の携帯電話機が開発されると、携帯カメラで撮影した画像をメールに添付し、友だちに送るいわゆる「写メール」が若者たちの間ではやりました。

 

携帯メールは、自社ドメインをメールアドレスとしたeメールサービスで、他のインターネットサービス同様、パケット方式で通信が行われます。メールサーバは携帯電話各社にあり、インターネット接続口を通じて、他の携帯電話会社を始め、世界中のメールサーバに向かって送受信できます。

携帯電話では、ショートメールサービスと同様に新着通知が求められたので、そのために符号化された特殊なSMSが使われています。

 

スマートフォンが普及し、自宅のパソコンと同じメールアドレスで、スマートフォンでeメールが使えるようになり、携帯メールの利用は徐々に縮小しています。