音楽配信サービス

音楽メディアの変遷

ちょっと前まで、音楽を聴くにはCDを購入するのが当たり前でした。最近ではスマートフォンやパソコンでインターネットを介して、音楽配信サービスを利用する人が大変多くなっています。

ここでは主な音楽配信サービスを紹介しますが、その前に、レコードから最新のストリーミングサービスまで、音楽メディアの歴史を振り返ってみましょう。

 

アナログレコード

1877年にアメリカの発明王エジソンが円筒形の記録体に音が記録できる「蓄音機」を発明したことで、「音楽」を記録しておくことができるようになりました。その後ディスク(円盤)型のレコードと手回しの蓄音機が開発され、さらに19世紀になると、回転数やサイズが統一され、電気式蓄音機が誕生したことから、アナログレコードが全世界的に普及しました。19世紀の半ばには30cmサイズで30分程度のLP盤、17cmサイズのシングル盤やEP盤など数種の形体に標準化されました。さらに、1950年代~1970年代にかけて、アナログレコードはステレオ対応のものに変わっていきました。

 

カセットテープ

第二次世界大戦後に、磁気テープへの録音という新しい記録方法が登場します。音質が悪く、盤の摩耗、針の消耗など様々な問題を抱えたアナログレコードに比べて、音質に優れ、ステレオ録音やマルチトラック録音、音源の編集が容易なオープンリール形式のテープレコーダーは、録音スタジオなどの業務用として現在なお用いられています。

一般家庭用には、オランダのフィリップス社が発明し、1965年に特許を無償公開したカセットテープが、コンパクトで安価のうえ、取り扱いが簡単で録音もできるメディアとして世界中で爆発的に普及しました。録音済みの音楽テープが発売されたほかに、無音のカセットテープを使って、ラジオ放送などの録音や、カセットテープ同士でダビングしたりできたので、手軽に使える音楽メディアとして多くの人に使われました。テープレコーダーをオーディオセットの中に導入していることが当たり前になり、ラジカセやソニーのウォークマンなどの外出先でも録音や音楽を聴ける機器、さらにはカーオーディオも、カセットテープが生まれたからこそ普及したのです。

 

コンパクトディスク(CD)

ソニーとフィリップスが共同開発して1982年に発売を開始した、デジタル信号で音楽を録音するコンパクトディスク(CD)の登場により、音楽メディアはアナログからデジタルへと時代が移ります。デジタルの利点は、音質の劣化がなく編集も簡単であること、さらに1990年台になって一般家庭にも急速に普及したパソコンとも相性が良いことが挙げられます。

CDは当初CDプレーヤーで再生するだけで、カセットテープと違って自分で自由に録音できませんでしたが、やがて音響データなどを書き込めるCD-RやCD-RWが開発され、そのための装置であるCDドライブも発売されました。CDプレーヤーやCDドライブがオーディオセットに組み込まれたり、カーオーディオもCDに対応したり、CDドライブ付きのノートパソコンが普及した結果、CDはぐんぐんシェアを伸ばし、1988年にはレコードを追い抜き、さらに1990年台の終わり頃にはカセットテープも追い抜いて、音楽メディア市場は完全にCDに制圧されてしまいました。また、CDは盤の摩耗などによる音質の劣化も少なく、コンパクトであることから、レンタルショップでも主力の商品として取り扱われるようになりました。

なお、CDドライブは当初高価であったこともあり、1990年代から2010年頃まで、ミニ・ディスク(MD)という録音できる音楽メディアとそのための装置が普及したこともありましたが、MP3の普及などにより現在ではその役目を終えています。

 

MP3の普及

2000年頃からは、パソコンやスマートフォンで音楽を楽しむ時代に突入します。音声の周波数帯域では極端な声質の劣化を伴わずに圧縮できる「MP3(MPEG-1 Audio Layer 3)」という音響データの圧縮規格が普及して、パソコンでもCDの音楽をMP3に変換して取り込んだり、CD-Rに焼き付け・再生ができるようになりました。またMP3に圧縮した音源を持ち出せるポータブル機器も多数登場し「MP3プレーヤー」と呼ばれました。現在では、このようなポータブル機器は様々な圧縮形式の音響データに対応しているので「デジタルオーディオプレーヤー」と呼ばれています。さらに、iPhoneをはじめとするスマートフォンでもMP3を扱えますので、若者を中心に通勤・通学途中などでも音楽を聴く人が大変増えました。

MP3は画期的な技術だったのですが、著作権保護機能がありませんでした。そのため、CDからパソコンにアルバムをMP3で圧縮コピーし、インターネットを通じて配布したり交換したりする違法行為を助長してしまったのも事実です。

 

音楽配信サービスの時代

レコードからカセットテープ、そしてCDへと移り変わっていった音楽メディアですが、「メディアを店頭で購入する、あるいはレンタルする」という入手方法は、長い間変わりませんでした。しかし、パソコンとインターネット回線の普及で、インターネットを介して音楽データをダウンロードして購入したり、定額制の音楽ストリーミング配信サービスを利用したりできるようになりました。

一般社団法人日本レコード協会「日本のレコード産業 2021」によれば、2020年現在の音楽メディア市場では、まだ音楽メディアの販売が配信サービスの売上を上回っています(推定で約3倍。音楽メディアの生産金額1,944億円に対して、配信サービスの売上金額783億円)が、前者が低減を続けているのに対して、後者は伸び続けており、近いうちには同等に、やがては逆転するものと思われます。

 

音楽配信サービス

定額制(サブスクリプション)

以下は、定額制(サブスクリプション)の音楽ストリーミング配信の主なサイトです。

無料プランでも楽曲をフルで聴くことができるのは、SpotifyとYouTube Musicのみのようです。

 

概ねどのサービスでも、有料プランではオフラインで楽曲を聴くことができます。ストリーミング配信のオフライン再生は、後述のダウンロート配信とは違って、音楽ファイルの所有権はサービス提供会社にあります。したがって、多くの場合、保存できる曲数や端末数、あるいは一定期間接続しない場合などの制限がかけられています。もちろん解約後は聴けなくなります。

 

サービス名 提供会社 楽曲数 月額料金 オフライン 特徴・備考
Spotify スポティファイジャパン 7,000万曲

0円、980円

有料プランのみ可 

最大5台・1万曲/台

スウェーデン発祥の世界的な音楽配信サービスで海賊版の撲滅が経営理念

Duo、Family、StudentおよびFreeプランあり

会員数36,500万人、内無料会員数約2億人

YouTube Music Google 8,000万曲

0円、980円

iPhone1,280円

有料プランのみ可

YouTubeの音楽配信版。YouTube同様、基本は広告付きの無料サービス

有料プラン(Premium)では広告が非表示で、オフライン再生やバックグラウンド再生が可

Amazon Music Prime Amazon.com 200万曲

追加料金なし

可(アプリ内に保存)

Amazon Prime会員専用
Amazon Music Unlimited Amazon.com 7,500万曲

980円

Amazon Prime会員 780円

可(アプリ内に保存)

Familyプラン、Studentプランあり

HD(高音質)プランあり

Apple Music Apple 7,500万曲 980円

可(「ライブラリを同期」または「iCloudミュージックON」の設定要)

Familyプラン、Studentプランあり 

 

 

AWA AWA 9,000万曲

980円

(年9,800円)

7日間以内に再接続が必要 

配信楽曲数は世界最大規模

学生プランあり

dヒッツ powered by レコチョク NTTドコモ 非公開

基本プラン

330円

myヒッツプラン 550円

ダウンロード後に一度再生要 

プレイリスト9,500以上が聞き放題

KKBOX

(旧LISMO unlimited)

KKBOX JAPAN 7,000万曲 980円

(自動でキャッシュ保存)

最大4,000曲

台湾発祥の音楽配信サービス

2020年よりKDDIの子会社

LINE MUSIC LINE MUSIC 8,300万曲

980円

(年9,600円)

最大500曲(アルバム100枚、プレイリスト100リスト )

7日間以内に再接続が必要 

LINEのBGM、着うたなどへの設定が容易

学生プラン・ファミリープランあり

TOWER RECORDS MUSIC
(旧RecMusic)
タワーレコード 7,000万曲 980円

(アプリ機能として、キャッシュ保存)

2021年10月1日にTOWER RECORDS MUSIC(powered by レコチョク)にリニューアル

Rakuten Music

(楽天ミュージック)

楽天 8,000万曲

980円/30日

楽天カード会員780円/30日

(ライトプランは不可)

最大2,000曲 

アプリ利用に関わるミッション達成で、楽天ポイントが還元される

ライトプラン(500円/月、20時間/月)あり

ANiUTa

(アニュータ)

アニュータ 10万曲 600円

(端末内に自動キャッシュ) 

アニメソングに特化した音楽配信サービス

その他にも、高音質な音楽配信のmora qualitas(ソニー・ミュージックソリューションズ)、ラジオ型の有料音楽配信のSMART USEN(U-NEXT)などがあります。

 

音楽ダウンロード配信(楽曲購入)

以下は、音楽データを楽曲あるいはアルバム単位でダウンロード販売する主なサイトです。

ダウンロードした音楽ファイルの所有権は購入者にありますので、そのファイルを別のデバイスにコピーすることなどが可能です。

 

1曲あたりの価格はサイトや曲によって多少差がありますが、日本の楽曲は概ね260円程度(高音質のものは550円程度)のようです。

 

ストア名 提供会社 楽曲数 価格 特徴・備考

iTunes Store

Apple 7,500万曲 150~250円/曲 高音質(ハイレゾ)音源の楽曲の販売はしていない 
mora ソニー・ミュージックソリューションズ 非公表  150~550円/曲

ソニーが運営する音楽ダウンロードサイト

高音質(ハイレゾ)音源の楽曲配信が強み

高音質のストリーミング配信(mora qualitas。2,178円/月)も行っている

レコチョク レコチョク 

7,000万曲

150~550円/曲

レコード会社直営の音楽配信サービス(現在の筆頭株主はNTTドコモ)

フィーチャーフォン向けの楽曲配信で成長

購入済みの曲は何度でもダウンロード可

Music.jp エムティーアイ  620万曲  150~550円/曲

フィーチャーフォン向けの着うたサイトが起源。その後動画やマンガなどの書籍販売もする総合エンターテインメントサイトに発展

ポイント還元(1%、月額会員は10%)あり

e-onkyo music Xandrie Japan  107万曲   400~550円/曲

高音質(ハイレゾ)音源専用の配信サイト

2021年9月オンキョーグループより事業譲渡

Amazon Musicデジタルミュージック」でも一部の楽曲でMP3形式でのダウントード購入が可能です。

その他、音楽家の誰もが簡単に音楽作品を有料配信できるという「OTOTOY」という音楽ダウンロード配信のストアもあります。

 

音楽配信市場の動向

一般社団法人日本レコード協会「日本のレコード産業 2021」によれば、2013年以降音楽配信市場はプラス成長を続けており、2020年の音楽配信の売上金額は783億円(前年比111%)で、3年連続の2桁増を達成しています。

 

内訳を見ると、ダウンロード配信の売上は低減を続けているのに対して、ストリーミング配信(サブスクリプション+広告)の売上は急速に伸びていて、2020年の売上金額は589億円(前年比127%)に達し、音楽配信売上金額の区分別シェアで全体の75%を占めるまでに成長しています。

 

音楽配信市場の売上推移(出典:日本のレコード市場 2021)
音楽配信市場の売上推移(出典:日本のレコード市場 2021)